ピラビタール

息をこらえて 目を閉じて 夜のふちへ

2018-01-01から1年間の記事一覧

レーガンの動物権利論

2018年最後の記事です。前回12月28日に「カントの間接義務論」を論じ、その最後にカント主義からトム・レーガンの動物権利論への接続に触れたので、今回はレーガンの理論についてまとめます。とは言っても、トム・レーガンの書籍は日本語に翻訳されているも…

カントの間接義務論

私はカント倫理学に強い魅力を感じている。難解なカント倫理学のごく一部しか理解していないものの、倫理学の学説の中ではカント倫理学(カント主義)がしっくりくる。 カント主義を支持するからと言って、イマニュエル・カントという哲学者の思想や言説をそ…

植物の命はいいのか? その3

「植物の命はいいのか? その2」の続き。 5と6を扱います。 藁人形論法 生命は神聖なものではない 生命の神聖性の人間中心主義 生命の2つの役割 経験的生を欠く存在の固有の価値 生命中心主義

植物の命はいいのか? その2

「植物の命はいいのか? その1」の続き。 3と4を扱います。 藁人形論法 生命は神聖なものではない 生命の神聖性の人間中心主義 生命の2つの役割 経験的生を欠く存在の固有の価値 生命中心主義

植物の命はいいのか? その1

ベジタリアンやヴィーガンに対して頻繁に寄せられる問い、または反論の一つがプランツゾウとも呼ばれる「植物の命はいいの?」です。この問いについては既に『講座 あにまるえしっくす』第2回で扱っています(次回でも少し触れる予定です)ので、敢えて記事…

説得力と魅力とのバランス

質問箱に届けられていた質問に答えたいと思います。最初の質問は8月27日に届いていました。3ヶ月も経過していたのですね。大変長い間お待たせしてしまい、すみませんでした。昨日のシンガーの「飢えと豊かさと道徳」の紹介と自身の見解の表明で、質問者さま…

飢えと豊かさと道徳

一昨日、映画を観てきました。話題になっている『ボヘミアン・ラプソディ』です。泣きました。私はQUEENというバンドのことはよくわからないのですが、兄が大好きでよく流していたので、知っている曲が多かったです。 で、私は映画を観てきたわけですが、そ…

ピーター・シンガーと動物実験

ピーター・シンガーの動物解放論やトム・レーガンに始まる動物権利論は、動物の利益に人間の利益と同様の重みを与えるという点で、従来の動物愛護運動と一線を画する。動物愛護運動はあくまでも人間の利益を優先した上で、動物の利益にも「そこそこの」配慮…

動物を虐待してはならない理由

動物に道徳的地位を認めるということは、動物が動物自身の資格において配慮に値するということを意味する。それは、他の何者かの利益のための派生的な考慮からではなく、動物自身の利益に独立した倫理的意義を認めるということである。簡単なアンケートを紹…

「動物の権利」の混乱と整理

昨日の記事で「道徳的地位」なるものが意味するところを整理した。 動物の道徳的地位についての整理 - ピラビタール 続いて、「動物の権利」という語の意味するところについて、整理する。ある者は動物の権利を動物福祉と同様の意味で捉え、またある者は基本…

動物の道徳的地位についての整理

今回の記事と次回の記事で、道徳的地位や道徳的権利といった混乱しがちな概念を整理します。参考図書はデヴィッド・ドゥグラツィア『動物の権利』です。よろしくお願いします。 動物の権利 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 作者: デヴィッド・ドゥグラツィア,戸田…

「動物に権利はあるか」 by ジェームズ・レイチェルズ

先日のとある講義で、動物の権利論が「極端だ」「過激だ」という表面的なコメントだけで退けられるのを聴いた。動物の権利論の要求にしたがえば確かに我々の社会は抜本的な改革を余儀なくされるし、獣医師の職域も大きく狭まるだろう。その意味では過激に聞…

道徳、一貫性、矛盾について

「正直になりなさい」「人に親切にしなさい」「約束を守りなさい」――こうした道徳的な命令をされると、私たちは「あなたがそれを言うのか?」「この人にそれを言う資格があるのか?」と反発することがある。自身も嘘つきなのに、他人に対して「正直になりな…

昨日の記事への追記

昨日の記事 「猫にヴィーガン食を与えるべきではない」という判断について が賛同・批判を含め思いのほか反響がありました。いくつかの誤解が生じていたようなので、その説明を含めて、補足的に追記します。 まず私は、猫をヴィーガン食で飼養することの是非…

「猫にヴィーガン食を与えるべきではない」という判断について

■倫理的判断の普遍化可能性 誠実な倫理的判断は、普遍化可能性を備えていなければならない。普遍化可能性とは倫理的判断がもつとされる性質であり、「ある状況である道徳判断をしたなら、それと類似したあらゆる場面で同じ道徳判断を下したことになる」とい…

死は危害か?

まともな理由もないのに他者に危害を加えてはならない――この倫理観は広く共有され、懐疑主義の立場に固執して敢えてこれを否定しようと試みるのは非生産的であり、不毛であると考える。だが、「まともな理由」に何が含まれるかは議論の分かれるところである…

'Treat like cases alike.'という原則

倫理は趣味と同じで個人の好みの問題だから議論しても仕方ないという意見がある。しかし、良い倫理的判断は、少なくとも三つの要素(事実と価値の区別、判断の一貫性、公平な視点)を考慮に入れている必要がある。 ――児玉聡、『入門・倫理学』の第一章「倫理…

相対主義について

6日未明に起きた北海道胆振東部地震に際して心配して下さった方々、どうもありがとうございました。中には食糧や衣類を送ろうかと申し出て下さった方もおり、お気持ち大変感謝しております。私は全然大丈夫ですので、被災者支援のための募金に回して頂けたら…

ヒュームの法則、普遍化可能性

前回は、「特徴」や「能力」といった観点から、人間の特権的な道徳的地位を主張する議論を批判した。今回は論理学と倫理学の概念を用いて、この議論の構造を分析する。そして、やはり「種差別」は擁護し難い、という結論を導くつもりだ。尚、今回の議論は伊…

人間と動物の道徳的地位

4月11日の記事で「種差別」という概念について説明を試みた。今回と次回では、種差別を正当化する議論に対する反駁を試みる。 「利益をもつ者に平等に配慮すべきこと」が道徳のひとつの要請である。これが「公正」である。他者の利益を不当に奪ったり、不利…

あにまるえしっくす

twitterで知り合ったおにぎりさん作画、私原作で、漫画の連載を始めました。 タイトルは『講座 あにまるえしっくす』、動物倫理を解説する漫画です(生命倫理、環境倫理にも触れる予定)。 第1回は「種差別って何だ?」 こちらの記事を原作としています。 …

もうすぐそこに夏がきています

このブログのタイトル「ピラビタール」は、私が大好きな大好きな歌手の森田童子さんの曲名から拝借しています。森田童子さんに出会ったきっかけは、月並みですが、中学の頃に放送されていたドラマ『高校教師』でした(桜井幸子さんではなく、上戸彩さんの方…

論理的思考のレッスン

春休み中に戸田山先生の『論理学をつくる』を読破する予定でした。が、他にも読みたい本がわんさとあり、挫折しました。現在、第4章の途中で止まっております。予定を変更して、ゆっくりゆっくり、数ヶ月かけて読破する計画です。 今回読んだ内井惣七『論理…

「種差別」という概念

動物倫理は現代倫理学の分類に従えば応用倫理学の一分野である。私達は動物とどう接すればよいのか、私達と動物のあるべき関係はどのようなものかを考察する。義務論や功利主義といった規範理論を駆使し、動物実験、肉食、ペットショップの問題、動物園や水…

ムーアの未決問題論法

「ひいおばあちゃん」とは「親の親の母」のことである。(性の多様性のことを考えればそう言い切るのは問題だが、ここではその点には目をつむってほしい。)「ひいおばあちゃん」という概念は「親の親の母」という概念へと分析される。ある対象Xについて、…