ピラビタール

息をこらえて 目を閉じて 夜のふちへ

押し付けないで!

ビーガニズムにせよ反出生主義(アンチナタリズム)にせよ、何らかの倫理的なism(イズム)を主張する者は、ほぼ必ず「価値観を押し付けないでほしい」という反発に直面する。ビーガンならば、「自分が肉を食べないのは勝手だが、他人に肉を食べないように押し付けるべきではない」という反発を食らったことが一度はあるのではないか。アンチナタリズムも同様であろう。「自分が子供をもうけないのは好きにしたらいいが、他人の決定に口をはさむべきではない」という反発は頻繁に見かける。

 

今回の記事では、何らかの倫理的なismの主張に対して、「その価値観を押し付けるな」と反発することが不可能であること、不当であること、そして的外れであることを、3つの観点から解説する。(書き終わってから気が付いたが、ビーガニズムの話題がメインで、反出生主義の話はほとんど出てこない。しかし反出生主義にも以下の議論はまったく同様に適用できる)

 

ちなみに今回の記事の一部は、既に『講座あにまるえしっくす』第2回コラム2で論じてある。

 

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ピーター・シンガーはアニマルライツ?

現在、『講座 あにまるえしっくす』第1巻の製本に向けて準備中です。と言っても今のところゆび子さんに任せきりで、私はほとんど何もしていないのですが……。販売はたぶん8月くらいになると思います。どうぞよろしくお願いします。第1巻に収録予定の話は第0~5回、及びコラム1~5です。

 

ちなみに第2巻(販売は1年後くらいでしょうか?)の最初に収録されるであろう第6回は、ピーター・シンガーを扱います。シンガーは誤解も多く、またやや複雑な議論をしているのでなるべく丁寧な解説を試みたいです。誤解のいくつかを解けたらいいですね。一番解きたい誤解は、「ピーター・シンガーアニマルライツを唱えた」という、多くの人が抱いている誤解です。

 

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自然、食物連鎖について言うべきこと

苗野「……という理由から、私は動物を食べるべきではないと思っています」

先生「でも、ヒトは何万年も何十万年も前から動物を食べて生きてきたんですよ」

 

ため息が出る。興味を持って質問してくれた人に対しては、なるべく丁寧に説明してみることを心掛けてはいるものの、先生を相手にし、できうる限り詳細な説明をし終わった後にこのレベルの反論をされると、全身の力が抜ける。

 

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人類をあらしめよ?

破壊される地球環境と、日々殺戮される動物たちを憂い、人類の絶滅を願う声を聞くことがある。「いっそのこと人類が絶滅してしまえばよいのだ」。しかし、言ってみれば極めて「ナイーブな」その解決策に対する、無責任であるとの批判も聞く。滅びる前に、地球を以前の状態に戻すべきだろう、人類にはその責務があるだろう、と。

 

この批判には確かに説得力を感じる。借りた部屋を汚したならば、出て行く前にきれいな状態に戻すべきだろう。散々汚しておいて、後始末は次に住む者に任せる、というのは確かに無責任極まりない。しかし、地球を以前の(「以前の」とは果たしていつの状態のことなのかも問題だが、ひとまずそこはおいておく)状態に戻すまで、「人類は滅ぶべきではない」と言ってしまうことにもまた、問題がある。

 

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事実とか価値とか

あにまるえしっくすのアカウントで、noteを少しづつ公開しています。先ほど、「事実とか価値とか」というタイトルで掲載しました。こちらにも、全文を載せます。

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 『講座 あにまるえしっくす』第0回「倫理学を始めよう!」では、健全な倫理的判断は妥当な「理由」を必要とし、そして妥当な理由は3つの条件を備えていなければならないと解説しました。3つの条件とは

①普遍的な視点を備えていること
②一貫性を備えていること
③正確な事実に基づき、かつ、事実と価値を区別していること

なのでした。今回は第3の条件のキーワードである「事実」と「価値」を中心に、本編で解説できなかったことを少しだけ補足します。

 

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