ピラビタール

息をこらえて 目を閉じて 夜のふちへ

死なないやつら

 

死なないやつら (ブルーバックス)

死なないやつら (ブルーバックス)

 

 

タイトルから察するにいわゆる「極限生物」を紹介する本だろうと思って読んでみました。ですが全5章のうち、極限生物の紹介にあてられているのは第2章だけです。全体を通して「生命とは何か」「生きているとはどういうことか」「生命はどのように発生したのか」といった問題を探究する生物学啓蒙書のようです。筆者としては、すさまじい環境で生活する驚異の極限生物について考えることで、これらの疑問の答えに近付こうと試みたようなのですが、その試みが成功したのかどうか、初学者の私にはイマイチわかりませんでした。

極限生物として有名なのはクマムシですよね。クマムシは脱水して「樽」と呼ばれる乾燥状態になると、代謝が止まり、活動を停止します。この状態になると151℃の高温や0.075ケルビンという低温状態に晒されても死にません。ですが上には上がいます。クマムシよりはるかに驚異的な極限生物が実はたくさんいるのです。バクテリア(細菌)やアーキア古細菌)です。クマムシの場合「樽」と呼ばれる仮死状態になって極限環境に耐えるのに対し、これらの微生物がすごいのはそうした極限環境でもいきいきと活動しているところです。

・122℃の熱水中でも増殖するアーキア「メタノピュルス・カンドレリ」

・16000気圧でも生きる「シュワネラ・オネイデンシス」

・20000気圧にも適応したふつうの「大腸菌

・真水から塩分濃度30%の飽和食塩水まで生きられる広範囲好塩菌「ハロモナス」

・1440グレイの放射線量まで耐えられる「デイノコッカス・ラジオデュランス」

(人間の耐えられる上限値は10グレイ)

・40万Gの重力下でも細胞分裂し、増殖した大腸菌と「パラコッカス・デニトリフィカンス」

など…。面白いのは、これらの能力が明らかに「過剰」である点です。例えば地球上で1440グレイもの強烈な放射線が出ている場所はありませんし、40万Gもの重力が自然界に存在しないのは言うまでもありません。彼らの能力は、地球上で生きていく上で、まったく必要のないものです。

こうしたすさまじい極限生物の紹介を通して、生命の本質に迫るのかな、と思いながら読み進めていきましたが、そうでもありませんでした。生命の本質に迫る章はあったのですけど、それと「極限生物」はあまり関係ないような気がして、全体の中で第2章が浮いているように思えました。それは単に私が勉強不足のためなのかもしれません。

それなりに面白かったです。ブルーバックスの啓蒙書ですし気軽に読めますので、生物に興味のある方にはおすすめです。