ピラビタール

息をこらえて 目を閉じて 夜のふちへ

動物倫理

押し付けないで!

ビーガニズムにせよ反出生主義(アンチナタリズム)にせよ、何らかの倫理的なism(イズム)を主張する者は、ほぼ必ず「価値観を押し付けないでほしい」という反発に直面する。ビーガンならば、「自分が肉を食べないのは勝手だが、他人に肉を食べないように押…

ピーター・シンガーはアニマルライツ?

現在、『講座 あにまるえしっくす』第1巻の製本に向けて準備中です。と言っても今のところゆび子さんに任せきりで、私はほとんど何もしていないのですが……。販売はたぶん8月くらいになると思います。どうぞよろしくお願いします。第1巻に収録予定の話は第…

自然、食物連鎖について言うべきこと

苗野「……という理由から、私は動物を食べるべきではないと思っています」 先生「でも、ヒトは何万年も何十万年も前から動物を食べて生きてきたんですよ」 ため息が出る。興味を持って質問してくれた人に対しては、なるべく丁寧に説明してみることを心掛けて…

種差別と合理的な区別

動物愛護、動物保護、動物の権利に関わる議論では、「種差別」という単語が頻出する。そして「種差別」という語の意味するところが人によって異なっていたり、曖昧であったり、感情的に使用されたりするため、議論は時に不毛になる。「種差別」概念を受け入…

ビーガンという生き方

漫画『講座 あにまるえしっくす』の作画担当者が、第3回よりおにぎりさんから紡音ゆび子さんに交代しました。2月6日に第3回「どうして犬を蹴ってはダメなのか?」を公開し、2月12日にコラム1「動物が好き?いいえ、正義の問題です」を公開しました*1。コ…

レーガンの動物権利論

2018年最後の記事です。前回12月28日に「カントの間接義務論」を論じ、その最後にカント主義からトム・レーガンの動物権利論への接続に触れたので、今回はレーガンの理論についてまとめます。とは言っても、トム・レーガンの書籍は日本語に翻訳されているも…

カントの間接義務論

私はカント倫理学に強い魅力を感じている。難解なカント倫理学のごく一部しか理解していないものの、倫理学の学説の中ではカント倫理学(カント主義)がしっくりくる。 カント主義を支持するからと言って、イマニュエル・カントという哲学者の思想や言説をそ…

植物の命はいいのか? その3

「植物の命はいいのか? その2」の続き。 5と6を扱います。 藁人形論法 生命は神聖なものではない 生命の神聖性の人間中心主義 生命の2つの役割 経験的生を欠く存在の固有の価値 生命中心主義

植物の命はいいのか? その2

「植物の命はいいのか? その1」の続き。 3と4を扱います。 藁人形論法 生命は神聖なものではない 生命の神聖性の人間中心主義 生命の2つの役割 経験的生を欠く存在の固有の価値 生命中心主義

植物の命はいいのか? その1

ベジタリアンやヴィーガンに対して頻繁に寄せられる問い、または反論の一つがプランツゾウとも呼ばれる「植物の命はいいの?」です。この問いについては既に『講座 あにまるえしっくす』第2回で扱っています(次回でも少し触れる予定です)ので、敢えて記事…

ピーター・シンガーと動物実験

ピーター・シンガーの動物解放論やトム・レーガンに始まる動物権利論は、動物の利益に人間の利益と同様の重みを与えるという点で、従来の動物愛護運動と一線を画する。動物愛護運動はあくまでも人間の利益を優先した上で、動物の利益にも「そこそこの」配慮…

動物を虐待してはならない理由

動物に道徳的地位を認めるということは、動物が動物自身の資格において配慮に値するということを意味する。それは、他の何者かの利益のための派生的な考慮からではなく、動物自身の利益に独立した倫理的意義を認めるということである。簡単なアンケートを紹…

「動物の権利」の混乱と整理

昨日の記事で「道徳的地位」なるものが意味するところを整理した。 動物の道徳的地位についての整理 - ピラビタール 続いて、「動物の権利」という語の意味するところについて、整理する。ある者は動物の権利を動物福祉と同様の意味で捉え、またある者は基本…

動物の道徳的地位についての整理

今回の記事と次回の記事で、道徳的地位や道徳的権利といった混乱しがちな概念を整理します。参考図書はデヴィッド・ドゥグラツィア『動物の権利』です。よろしくお願いします。 動物の権利 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 作者: デヴィッド・ドゥグラツィア,戸田…

「動物に権利はあるか」 by ジェームズ・レイチェルズ

先日のとある講義で、動物の権利論が「極端だ」「過激だ」という表面的なコメントだけで退けられるのを聴いた。動物の権利論の要求にしたがえば確かに我々の社会は抜本的な改革を余儀なくされるし、獣医師の職域も大きく狭まるだろう。その意味では過激に聞…

昨日の記事への追記

昨日の記事 「猫にヴィーガン食を与えるべきではない」という判断について が賛同・批判を含め思いのほか反響がありました。いくつかの誤解が生じていたようなので、その説明を含めて、補足的に追記します。 まず私は、猫をヴィーガン食で飼養することの是非…

「猫にヴィーガン食を与えるべきではない」という判断について

■倫理的判断の普遍化可能性 誠実な倫理的判断は、普遍化可能性を備えていなければならない。普遍化可能性とは倫理的判断がもつとされる性質であり、「ある状況である道徳判断をしたなら、それと類似したあらゆる場面で同じ道徳判断を下したことになる」とい…

死は危害か?

まともな理由もないのに他者に危害を加えてはならない――この倫理観は広く共有され、懐疑主義の立場に固執して敢えてこれを否定しようと試みるのは非生産的であり、不毛であると考える。だが、「まともな理由」に何が含まれるかは議論の分かれるところである…

'Treat like cases alike.'という原則

倫理は趣味と同じで個人の好みの問題だから議論しても仕方ないという意見がある。しかし、良い倫理的判断は、少なくとも三つの要素(事実と価値の区別、判断の一貫性、公平な視点)を考慮に入れている必要がある。 ――児玉聡、『入門・倫理学』の第一章「倫理…

ヒュームの法則、普遍化可能性

前回は、「特徴」や「能力」といった観点から、人間の特権的な道徳的地位を主張する議論を批判した。今回は論理学と倫理学の概念を用いて、この議論の構造を分析する。そして、やはり「種差別」は擁護し難い、という結論を導くつもりだ。尚、今回の議論は伊…

人間と動物の道徳的地位

4月11日の記事で「種差別」という概念について説明を試みた。今回と次回では、種差別を正当化する議論に対する反駁を試みる。 「利益をもつ者に平等に配慮すべきこと」が道徳のひとつの要請である。これが「公正」である。他者の利益を不当に奪ったり、不利…

あにまるえしっくす

twitterで知り合ったおにぎりさん作画、私原作で、漫画の連載を始めました。 タイトルは『講座 あにまるえしっくす』、動物倫理を解説する漫画です(生命倫理、環境倫理にも触れる予定)。 第1回は「種差別って何だ?」 こちらの記事を原作としています。 …

「種差別」という概念

動物倫理は現代倫理学の分類に従えば応用倫理学の一分野である。私達は動物とどう接すればよいのか、私達と動物のあるべき関係はどのようなものかを考察する。義務論や功利主義といった規範理論を駆使し、動物実験、肉食、ペットショップの問題、動物園や水…

社民党にメールを送ってから1ヶ月が過ぎました

先月、社民党の吉川元議員と社民党宛てにメールを送りました。送ってから1ヶ月とちょっと過ぎたのですが、返事は来ません。まぁ来ませんよね。残念ですが、こんな一学生に返事を送るほど国会議員の方は暇ではないのでしょう。 メールの内容は、先月11月15日…

獣医学と動物倫理と

獣医学部に入学してから1年と半年くらいが過ぎました。倫理学や分析哲学の勉強をしながら、ときどき獣医学もがんばっています。倫理学の中でも、特に興味深く学んでいるのは動物倫理です。 倫理学には以前から興味がありましたが、獣医学部に入るまで、動物…

環境と動物の倫理

今回紹介するのは田上孝一『環境と動物の倫理』です。先月読んだ本なのですが、せっかくなので忘れないうちに自分なりにまとめておくことにしました。本書は6つの論文からなる論文集ですが、その主題は全体的には「環境倫理学における動物の問題」であり、…

動物実験に関わる獣医倫理およびナントカカントカ

動物倫理について勉強を始めました。「肉食の是非」、「動物飼育の問題」や「野生動物をめぐる問題」など色々なテーマがあります。すべてに興味がありますが、今後の自分に直接関わりが深そうなのはおそらく「動物実験」でしょうね。 獣医倫理・動物福祉学―…