ピーター・シンガーと動物実験
ピーター・シンガーの動物解放論やトム・レーガンに始まる動物権利論は、動物の利益に人間の利益と同様の重みを与えるという点で、従来の動物愛護運動と一線を画する。動物愛護運動はあくまでも人間の利益を優先した上で、動物の利益にも「そこそこの」配慮をしましょうという立場であった。動物解放論や動物権利論はそのような態度を種差別と批判し、両者の利益を平等に配慮すべきと主張する。
であるから、昨日の記事「動物を虐待してはならない理由」のアンケートで、ピーター・シンガーはB3の立場に該当するとした。これについて、懇意にしている友人から、「シンガーは人間のための動物実験に賛成しているので、B2の立場ではないか?」という指摘を受けた。
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動物を虐待してはならない理由
「動物の権利」の混乱と整理
昨日の記事で「道徳的地位」なるものが意味するところを整理した。
続いて、「動物の権利」という語の意味するところについて、整理する。ある者は動物の権利を動物福祉と同様の意味で捉え、またある者は基本的人権と同様の不可侵の権利と考える。このように同じ言葉を論者によって異なる意味で使っていては混乱を呼ぶばかりである。というわけで今回の記事でその意味を整理しておきたい。動物に権利があると言うとき、その人は何を主張しているのか。昨日の記事と同様、デヴィッド・ドゥグラツィアの『動物の権利』を参考にする。ドゥグラツィアは動物の権利の意味を3種類に分けて解説する。
①道徳的地位の意味
②平等な配慮の意味
③功利性を乗り越える意味
「動物の権利」という語で意味するものを、弱いものから強いものへ順に並べると、上のようになる。「道徳的地位の意味」における権利はもっとも弱い権利概念であり、「功利性を乗り越える意味」における権利は強い権利概念である。今回はこれに第四の権利の意味「④市民権の意味」を加え、解説を試みる。
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動物の道徳的地位についての整理
今回の記事と次回の記事で、道徳的地位や道徳的権利といった混乱しがちな概念を整理します。参考図書はデヴィッド・ドゥグラツィア『動物の権利』です。よろしくお願いします。
- 作者: デヴィッド・ドゥグラツィア,戸田清
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「動物に権利はあるか」 by ジェームズ・レイチェルズ
先日のとある講義で、動物の権利論が「極端だ」「過激だ」という表面的なコメントだけで退けられるのを聴いた。動物の権利論の要求にしたがえば確かに我々の社会は抜本的な改革を余儀なくされるし、獣医師の職域も大きく狭まるだろう。その意味では過激に聞こえるのかもしれない。しかし過激に聞こえるということはそれが論理的に誤っていることを意味しないし、それだけ現状が理想からかけ離れているということの証左なのかもしれない。少なくとも、過激だという一言で退けるのでなく、動物の権利論のどこがおかしいのか、論理的な誤りにも言及してほしいものである。別の大学の講義ではまた違ったコメントを期待できるのだろうか。
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